「あなたはどうして魔法使いに?」
幻惑術師のAさん、直撃インタビュー

Aさん:本当は魔法使いになるつもりはなかったのですが……。
人生、何があるか分かったものじゃないですよね(笑)

Aさんと会話していたつもりの私は、いつの間にかひとりでそびえたつ巨大な木に話しかけていた。気が付けば、街にいたはずの私は深い森の中にいた。
一瞬の神業。
Aさんはこの道30年のベテラン幻惑術師である。

記者:素晴らしい魔法ですね。

Aさん:ありがとうございます。

記者:$#Q-%(不鮮明なノイズ)さんが、魔法使いになったきっかけはなんでしたか?

Aさん:そうですね。もともとは冒険者としてアーチャーをやっていました。

記者:後衛職ではありますが、今のお仕事とはだいぶ開きがありますね。

Aさん:ええ。ですから、昔の自分に言っても信じてもらえないと思います。
はじめは、遺跡で誰かの落とし物の魔導書を見つけたのがきっかけでした。革張りの魔導書は、新米の冒険者にはとても高価そうなものに思えました。

どこにいるかはわからないが、脳内に直接語りかけてくるAさん。その語り口には、どこか懐かしさがにじみ出ているような気がした。

記者:それでは、魔導書はAさんのものに?

Aさん:仲間同士でさんざんもめました(笑)
本でしたから、結局、ページを3つにわけることになりました。はじめと真ん中と終わり。重要だったのは真ん中でした。

いつのまにか、あたりは暗い洞窟の中に変わっていた。私の目の前には若かりしAさんと、その仲間たちが立っている。
Aさんの記憶があいまいなのか、はたまた、私に魔術の適性がないからなのか、Aさんの仲間たちの顔はおぼろげだ。
彼らは互いに何かを主張して、大声をあげてののしりあっているようだった。しかし、言い争いをする彼らはどこか楽しそうに思えた。

Aさん:後から考えれば、どこをもらうかで私の人生が変わっていたかもしれません。私は、最初、宝石が埋め込まれている表紙か裏表紙が欲しかったんですよ。

記者:運命の出会いというわけですね。

Aさん:まさに(ここで僅かに空間がかすれた)!
引き込まれるように転職して1からの出発。魔導書の解読、残りの人生ほとんどを費やすことになりました。

記者:偶然にも、生涯をかけたライフワークになったというわけですね。
本日はありがとうございました。
Aさん:こちらこそ。

気が付けば、私は元の場所にいた。取材のメモはところどころわけのわからないミミズののたくったような字が這っている。

はて? 私はいったい何をしていたものだろうか。

取材の対象の名前が思い出せない。財布が少し軽くなっている。そして、どこか遠くへ旅行へ行ってきたような、妙な疲労感がする。

というわけで、週刊『今日の魔法使い〜気になるあの人を直撃インタビュー〜』はお休みです。
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