トマトホール缶密室事件

パッパパラッパラパッパー。
バキッ。

滅多にしない料理をしていたら、
ホールトマト缶のプルタブがもげました。
なんで。
各馬一斉に落馬。

缶切りが発明されたのって、缶詰が発明されたよりも後なのだっけ……。
はじめて、日本が銃社会だったらいいなと思いました。

缶はぜんぜん開いてない。
うちには缶切りはありません。
これは……密室殺人事件だ!

ああ……。
こういう時に、頼れる法定代理人がいてくれたら……。

〜〜脳内裁判の模様〜〜

裁判長「これより、裁判を開廷します。被告人は、トマトホール缶をプルタブをもいで殺害し、そのあと、トマトホール缶が開かないのを分かっていながら、放置した罪に問われています。被告人、事実と異なる点はありますか?」
私「トマトホール缶のプルタブをもいでしまったのは事実です。ですが、放置した、というのは適切ではありません。私はトマトホール缶を救うために、ありとあらゆる手を尽くしました」
裁判長「なるほど」
検事「被告人は、ホールトマト缶を開けようとしたところで、首をもいでしまったのですね?」
私「はい……」
弁護士「お待ちください。あくまで”誤って”です。それで、その痛ましい事故が起こってしまったあと、あなたはどうしましたか?」
私「プルタブを助け起こそうとしました。触ってみて、完全に死んでいると分かりました。
なんとか中身を取り出そうと、尖ったものを探したのですが……ドライバーも金づちも、うちにはなくて……包丁でつついたりもしてみましたが、怖くてすぐに止めました」
聴衆:ザワザワザワ……。
弁護士「お聞きの通りです、陪審員のみなさん! 被告人は、ホールトマト缶をどうにかしようと、ありとあらゆる手を尽くしたのです! トマト缶をなんとか助けようとする心の表れではありませんか」
検事「フム。ちなみに、被告人は、何を作っていたのですか?」
私「バターチキンカレーです」
弁護士「裁判長! 被告人が何を作ろうとしていたかは、本件とは関係ありません。
検事は関係ないことを被告人に質問して、動揺を誘っています」
裁判長「検事、重要なことなのですか?」
検事「極めて。被告人。それで、実際の晩ごはんはなんでしたか?」
私「バターチキンカレーです」
検事「ほう? 結局、缶を開けられたのですか? そんなわけありませんね。そうだとしたら、こんな大事にはなっていないでしょう」
弁護士「貴様……っ!」
裁判長「では、どうしたというのですか?」
検事「裁判長、被告人は、ホールトマト缶の死亡を確認すると、すぐさま別の缶を近所のスーパーに買い求めに行きました。ここにレシートがあります」
弁護士「異議あり! とても腹が空いていたのです。手遅れであることは明白でした。被告人は、手だてを尽くしました」
検事「だとしても、ほんとうにトマトホール缶を救いたいのであれば、100均などで缶切りを購入すれば良かったのではないでしょうか?
そうすれば、ホールトマト缶は活用出来ました。
被告人は、それを怠り、自分の欲望のままにもう一度同じ缶を買ってきたのです!」
ザワザワザワ……。
弁護士「静粛に! 静粛に!」
検事「陪審員のみなさん。どちらが事実であるかは、もはや明確と思います」


〜〜〜

そんな劣勢な心の声を聞きながら、私はバターチキンカレーを食べたのであった。
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